−天保九年
「何だっ、某を縛るこの力はっ!」
アクロムザンは、自分の周囲に立ち籠める不可視の圧力に苦悶した。
皇帝陛下の命によって永き眠りについたはずだが、何なのだこれは?
横を見れば、同じくヒドウとセツナも動きを封じられ必死に抵抗を試みているところであった。
仮死状態から目覚めたばかりで状況が把握できないが、唯一言えることは、この状況はとてつもなく危険で、目の前の巨大な生き物たちは敵であるということだけだ。
「ぐぬうぅぅぅぅーっ!」
己を縛る力に抗おうとするムザンだったが、既に封魔の術は完成しようとしていた。
目の前の白い服を着た生き物が、裂帛と共に圧倒的な力を叩き付けてきた。
「オンアビラウンケンソワカ!!!!!」
全身に焼け付くような痛みが走る。
体の至る所から煙が上がり、その下から奇妙な紋様が浮かび上がってきた。
皇帝陛下に賜ったこの体を傷つけるとは、許さぬっ...。
だが、それ以上、ムザンは考えることは出来なかった。
薄れゆく意識の中で、自分を呪縛する憎き相手の顔を脳裏に焼き付け、ムザンは暗闇の中へと墜ちていった...。
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