ユメが、敷島藩上屋敷に奉公に出るようになって数日。 
       彼女は、市中の検分に出かける刹那の共をすることになった。 
       
      「おユメ、付いておいで。 
       まだミクロエドに来て日が浅いあんたの為に、あたいが街を案内するわ。」 
       
       刹那は、一方的にそう告げると、ユメを連れて外へ出た。 
       
       ここは、ミクロエド−全長約88平方メートル。人工約1200人の民営居住区。 
       江戸時代の様式を模した美しい街である。 
       
       市内を回っているときのこと、用水路に架かる橋を渡りながら、刹那はユメに聞いた。 
       
      「おユメ、曼珠沙華の花を知っているかい?」 
       
      「曼珠沙華? 彼岸花のことですか?」 
       
       質問の意図が分からず、ユメの心の奥に一瞬緊張が走った。 
       
      「そうとも言うねぇ。 
       でもね、あたしの言っているのは、天に咲く花のことさぁね。 
       天に咲く曼珠沙華は、人から悪を遠ざける良い花だって言うのに、地の上に咲く曼珠沙華は、不吉な花と忌み嫌われるのはどうしてかねぇ。」 
       
      「???」 
       
       謎かけのような刹那の問いに、ユメは、何も答えることが出来なかった。 
       刹那は、そんなユメの顔を見ながら、カラカラと笑っている。 
       
      「おユメ、帰るよ。 
       今日から、あたいの身の回りの世話は、あんたがおやり。」 
       
       刹那は、そう言うと踵を返して屋敷へと戻って行った。 
       
       この時、まだユメは知らない。セツナが、全て知った上でユメを側に置いていたことに。 
       あえて、己の敵を掌の上で泳がせていたのだ。 
       彼女の真意はどこにあるのか...? 
       
       
       ミクロエドを覆う闇は、暗く深く街を覆っている.... 
       
       
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